本研究の最終目標は全生物の細胞内コエンザイムA(CoA)濃度の調節機構を解明することであるが、本申請では古細菌のCoA生合成経路に焦点を絞った。CoA生合成経路は一般に初発反応を触媒するパントテン酸キナーゼ(CoaA)によって調節されているが、古細菌では未だに見つかっておらず、古細菌のCoA生合成経路の調節機構は不明のまま残されていた。そこで、好熱好酸性古細菌Picrophilus torridusのCoaA遺伝子(PTO0232遺伝子)のクローニング、大腸菌での発現を行い、平成20年度までに1)Thermoplasmatales目に属する好熱好酸性古細菌は大腸菌のCoaAに代表される原核I型CoaAを持つこと、2)原核I型に属するが、CoAあるいはアシル-CoAによる最終生産物阻害を受けないこと、3)生育環境に一致して、至適温度およびpHはそれぞれ55℃および5に持つことを明らかにした。 今年度は、前年度に引き続きPTO0232の酵素学的諸性質の解明、そしてメタン生成古細菌のCoaA遺伝子のクローニングを行った。PTO0232の性質では1)ATP以外のヌクレオチド三リン酸も広く認識すること、2)Mg^<2+>以外にMn^<2+>あるいはCo^<2+>なども幅広く受け入れること、3)パントテン酸に対するKmは621μMで、他のCoaAと比較すると非常に大きな値を示すことを明らかにした。これらの解析結果は好熱好酸性古細菌が属するThermoplasmatales目に特化していたため、メタン生成古細菌由来CoaAのクローニングも開始し、メタン生成古細菌では4'-ホスホパントテン酸の生成過程が異なり、パントイン酸のリン酸化の後、β-アラニンが縮合して4'-ホスホパントテン酸が生成することが分かった。これらの反応を触媒する酵素の諸性質に関しては、現在、解析中である。
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