研究概要 |
出芽酵母Saccharomyces cervisiaeにおいて,炭素数18の脂肪酸のうち食用油に豊富に含まれるステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸を唯一の基質とした増殖,およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子導入酵母を用いた脂肪酸β-酸化活性の解析を行った。分子内に3つの不飽和結合を有するリノレン酸では, S. cervisiaeは増殖できず,またβ-酸化活性が阻害されることを見出した。酵母を含む真核生物では脂肪酸β-酸化は,細胞小器官の一種であるペルオキシソームで行われる。ペルオキシソームの形成を促すことが知られているオレイン酸に対して馴化したS.cervisiaeでは,リノレン酸を基質とした増殖が認められた。リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸は分子内に複数のシス不飽和結合を有する。このため,分子がβ-酸化による分解を受ける構造になるためには,β-酸化の主反応以外にシス不飽和結合に対する異性化反応や還元反応が必要とされる。また,トランス脂肪酸の一つであるエライジン酸においても, S. cervisiaeは増殖できなかった。しかしながら,オレイン酸に対して馴化したS. cervisiaeでは増殖が認められた。オレイン酸で順化した後にリノレン酸やエライジン酸で増殖が認められた原因として,リノレン酸やエライジン酸では、ペルオキシソームに局在する特定の酵素活性の誘導が不十分である,ペルオキシソーム自体の形成誘導が不十分であるといった可能性が考えられた。今後はリノーレン酸やエライジン酸の代謝において,どのような酵素活性が重要な働きを担うのか,そしてそれら酵素活性の発現調節のメカニズムを明らかにする予定である。
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