脂質は重要な栄養素であるが、過剰に摂取することで生活習慣病のリスクファクターにもなり得る。本研究では、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを用いて多価不飽和脂肪酸のβ-酸化代謝に関係する遺伝子の発現誘導や機能について新たな知見を示した。 分子内二重結合数が三のα-リノレン酸は、その代謝に関与する遺伝子群の発現を誘導しないこと、β-酸化が行われる細胞小器官であるペルオキシソームの形成を分子内二重結合数が一のオレイン酸ほどは誘導しないこと、そして、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を導入した菌株を用いた解析においてβ-酸化活性を阻害することを示した。一方、一度オレイン酸で順化した細胞を、α-リノレン酸を唯一の炭素源として培養した場合には、野生株では速やかに増殖が認められたが、ジエノイル-CoAレダクターゼ遺伝子破壊株では増殖が認められなかった。この結果から、α-リノレン酸がβ-酸化により分解されるためには、ジエノイル-CoAレダクターゼが必須であることが示された。一度オレイン酸で順化した細胞を、分子内二重結合数が二のリノール酸を唯一の炭素源として培養した場合には、野生株では同様に増殖が認められ、ジエノイル-CoAレダクターゼ遺伝子破壊株でも増殖が遅いながら認められた。この結果から、α-リノレン酸のβ-酸化代謝においては、リノール酸の代謝においてよりもジエノイル-CoAレダクターゼへの依存度が高くなることが示唆された。 これまでの知見から12位の二重結合が存在する場合に、ジエノイル-CoAレダクターゼ活性が重要な働きを担うことが明らかになっているが、リノール酸もα-リノレン酸も9位と12位の二重結合を有する点で共通することから、本研究で認められたジエノイル-CoAレダクターゼへの依存度の違いは15位の二重結合があるか否かに由来することが示唆された。
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