担子菌キノコは食品としても生理活性物質の供給源としても重要である。しかし、一般にキノコと呼んでいる子実体ができる仕組みについては不明な点が多い。そのため、人工栽培によって安定に子実体を作ることができるキノコの種類はごく限られたものである。貴重なキノコを効率よく人工栽培するためには、子実体形成の機構を理解することが重要である。これまでに人工栽培が可能なエノキタケを実験材料に用いて、子実体が形成されるときにのみ特異的に発現する遺伝子を約600個分離した。この中には子実体形成の鍵となる遺伝子が含まれると考えられる。そこで、分離した遺伝子のはたらきを調べるためエノキタケにおける遺伝子操作実験系を開発した。 1.エノキタケで使用可能なレポーター遺伝子の検討 エノキタケ細胞内で遺伝子の発現量をモニタリングするため、蛍光を発する遺伝子の使用を検討した。アグロバクテリウムを用いて、緑色蛍光タンパク質遺伝子と細菌由来の赤色蛍光遺伝子を導入した結果、後者において明瞭な赤色蛍光を観察できレポーター遺伝子として利用可能であることがわかった。 2.遺伝子発現抑制用ベクターの作成 子実体形成期に特異的に発現する遺伝子の機能を調べるひとつの手段として、目的遺伝子の配列に相当する二本鎖RNA分子を細胞に導入し、該当遺伝子の発現を強力に抑制するRNA干渉法と呼ばれる方法の適用を検討した。種々の遺伝子に対して、簡便に二本鎖RNA分子を作ることができる汎用性のあるベクターpFungiwayを作成した。このベクターは担子菌キノコを含めて幅広い菌類に使用可能であり、遺伝子機能解明のための強力な実験ツールとして期待できる。今後は、エノキタケの子実体形成に関わる遺伝子の機能解明に用いる予定である。
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