巨大菌は分類学上(細胞生化学上)納豆菌や枯草菌に近いとされ、本菌が備えるバイオ分子装置群も納豆菌のものと本質的に類似していると考えられてきた。ただし、納豆菌は塩に弱いが本菌は耐塩性に優れているという種間の差もある。ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)は納豆ネバの主成分として有名だが、巨大菌もまた良く似たバイオポリマーを作る。ただし、塩ストレス負荷により生産誘導される点や立体規則性に優れたポリマーである等、PGA生産に関し際立った違いが見られた。我々は、耐塩性の発現と立体規則性PGAの生物材料機能の間に関連性があると予想し、非極限環境微生物(大腸菌が主たる試験対象)を立体規則性PGAでコートし、極限的な生育環境下での生育度を調査した。結果、巨大菌が作る立体規則性PGA(>90%L)を共存させると、大腸菌が本来生育できない4%NaCl含有栄養培地下で良好な生育が認められ、ここではじめて立体規則性PGAによる高塩環境への生育適応を立証するに至った。さらに規則性に優れた極限環境微生物Natrialba aegyptiacaのLホモ型PGA(100%L)の場合、耐塩化に加えて強アルカリ環境での生育(本来生育不可能なpH10付近でも良好な生育を確認)まで可能とし、PGAの立体化学性が環境ストレスに対する耐性化のメカニズムと深く関連していることが示唆された。 PGAは4-ナイロンに似た基本骨格と化成ナイロンにはない立体化学的特性(キラリティー)を備えた産業バイオ新素材(キラルナイロン)である。さらに立体規則性に優れたPGAならば、ストレスバリア性まで備えた先端機能材料としての用途創出や新たな応用展開(バイオ分子育種等)まで期待できる。立体規則性PGAの合成システムを知る足掛かりとして、巨大菌PGA合成遺伝子群のクローニングに着手した。ここでは立体規則性PGAが大腸菌を耐塩化する性質に着目し、高度に耐塩化した大腸菌クローンを選抜するファンクショナル同定法を構築した。現在までに有力な候補クローン計3株を得ている。
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