巨大菌のPGA生合成に係る遺伝子クラスターの同定にはじめて成功した。PGAを生産する微生物として、納豆菌、炭疽菌、表皮ブドウ球菌等のグラム陽性菌類、Fusobacteriumのようなグラム陰性菌、並びにNatrialba等の古細菌類が知られており、微生物界では比較的広範に存在していることが分かる。特に、真正細菌類においては3つの特徴的な遺伝子群BCAが存在し種を超えて高度に保存されている。巨大菌の該遺伝子クラスターにおいても全て予想通り存在していた。4番目のE遺伝子に関してはグラム陽性菌類独特であり、グラム陰性菌には存在しない。このE遺伝子配列を使って分子進化解析したところ、巨大菌と納豆菌は分類学上近縁であるにもかかわらず、該遺伝子クラスターの構造に関してはむしろ炭疽菌に近いことが示された。すなわち、納豆菌は菌体外(培地中)にPGAを大量放出するpgsタイプであるのに対し、炭疽菌は細胞表層に固定化し筴膜成分とするcapタイプであるが、巨大菌は後者のcapタイプを有していた。pgsタイプとは異なり、capタイプでは表層固定化酵素にあたるCapDの遺伝子が存在するが、巨大菌のそれにもcapD配列が存在した。そればかりか、CapDアイソ酵素と考えられるCapFをコードする新規遺伝子まで発見され、遺伝子クラスター構造としては先にないものであることが判明した。事実、capB-capC-capA-capD-capE-capFからなるこれまでで最長のクラスターであった。さて、納豆菌のPGAは立体規則性を欠くDL-PGAであるのに対し、炭疽菌と巨大菌はDかLかの違いはあるもの、共に立体規則性に優れたPGAを作る。capタイプの精密解析が進むことで、産業的に有用な立体規則性PGA合成の分子機構の理解が深まるものと期待される。巨大菌の場合、高塩環境下でPGAの長大化と培地放出が盛んになる。この興味深い現象は該ポリマーの分解能を備えたCapDEの塩応答性が関わっている可能性が高くなった。
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