大腸菌の細胞表層の構造維持に重要な役割をはたしている主要外膜タンパク質Lppは、そのカルボキシル末端でペプチドグリカンと共有結合している。この共有結合の有無がLppの機能にどのような影響を与えているのかを調べるために、Lppのカルボキシル末端に種々の変異を導入した変異株を構築して、1mM EDTA-1%SDS存在下での生存率を調べた。ペプチドグリカンと共有結合できない変異をもったLppを発現している菌株はEDTA-SDS処理で完全に死滅したが、Lppがペプチドグリカンと共有結合できる菌株はEDTA-SDS処理でも死滅せずに生存していた。この結果は、Lppが外膜に発現しているだけでは細胞表層の維持には寄与できず、共有結合していることがLppの機能に必須であることが明らかになった。 大腸菌はLppとペプチドグリカンの共有結合を触媒するトランスペプチダーゼを3種もっているが、それぞれの役割は不明であった。精製標品を用いた生化学的な機能解析の結果、YbiSは酸性と中性、ErfKは中性、YcfSはアルカリ性の条件下で働くトランスペプチダーゼであることを示した。pH環境の変化が酵素活性だけではなくトランスペプチダーゼ遺伝子の発現にも影響しているのかどうかを調べるために、種々のpHで発現させた大腸菌のトランスペプチダーゼ3種の存在量を調べた。その結果、YbiSは酸性と中性条件下で発現していたが、アルカリ条件下ではほとんど発現していなかった。一方、YcfSはアルカリ性条件下でのみ発現していた。これらの結果は、活性と発現が合理的に制御されていることを示唆している。なお、ErfKはいずれのpHでも発現していなかった。
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