主要外膜リポタンパク質Lppは、ペプチドグリカンと共有結合して細胞表層の構造維持に寄与している。その共有結合反応を触媒しているのがトランスペプチダーゼ(TPase) YbiSであり、さらにそのパラログとしてYcfSとErfKが存在することを昨年度までに見いだしてきた。今年度は、これら3つのTPaseの役割を環境変化への応答の観点から明らかにするために、3種のTPaseの遺伝子発現が、それぞれ培地のpH変化にどのように応答するのかをlacZとの融合遺伝子を構築して調べた。 ybiS-lacZを保持するMC4100(ΔlacZ)株は酸性、中性、アルカリ性のいずれの培地でも強いβガラクトシダーゼ活性を示したことから、YbiSはpH変化に対して構成的に実現するTPaseであると思われた。また、YcfSはアルカリ条件下で特異的に実現するTPaseであることを明らかにし、昨年度に得られたin vivoの結果と一致した。ErfKはoperon fusionでは十分な転写活性が示されたが、protein fusionではほとんど活性が見いだされなかったことから、その実現は翻訳レベルで斑に制御されており、pHによらずあまり実現していないTPaseであることが示唆された。これらの結果と当研究室の生化学的な知見から、YbiSは酸性・中性条件下で、YcfSはアルカリ条件下で、ErfKはバックアップとして、それぞれ機能するTPaseであると考えられ、大腸菌の細胞表層における環境変化への応答機構のひとつを明らかにすることができた。今回構築したoperon fusionとprotein fusionは3種のTPaseの遺伝子実現がpH以外のどのような環境刺激に応答しているのかを容易に調べるためのプローブとして有用である。
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