研究概要 |
マルチ遺伝子型Na^+/H^+対向輸送体であるSha輸送体が病原性と定常期移行に関与する分子機構について解明することを目的としている。Sha輸送体は、代表的な日和見感染菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の病原性に関与する。昨年度までに、緑膿菌Sha欠損株では定常期転写の誘導に必要な定常期シグマ因子RpoS及びクオラムセンシング(LasR,RhlR)の活性化がNaClの存在により強く阻害され、またその制御下にある多くの病原性遺伝子の転写が低下していることをGeneChip解析により明らかにした。本年度は、バイオフィルム形成、エラスターゼ活性、ピオシアニン生産について検討した。エラスターゼ及びピオシアニン生産は病原性に関与することが知られ、それぞれLasRとRhlRが支配するクオラムセンシングの制御下にある。0.3M NaCl存在下でのSha欠損株のエラスターゼ活性とピオシアニン生産は、野生株に比べて著しく低下していた。またSha欠損株のバイオフィルム形成は、0.2M以上のNaClにより阻害された。いずれも同モルのKClでは阻害効果は認められなかった。以上の結果はGeneChip結果と良く一致した。 これまで得られた結果は、培養温度を30℃で行っていた。生体内環境を考慮して37℃で同様の実験を行ったところ、これまで観察されていた増殖、rpoS発現、病原性因子産生、バイオフィルム形成に対する阻害効果が見えなくなった。37℃培養では30℃に比べてSha欠損株のNaCl感受性が緩和されており、0.4MまでNaClを添加しないと阻害効果が観察されないことが分かった。従って、30℃、0.3M NaCl条件下で見えていたSha欠損株の定常期移行阻害は、病原性低下の主要な原因とはならない可能性が考えられた。
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