ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)複合体は、一般的にヒストンを脱アセチル化することによりクロマチン構造を凝集させ、遺伝子の転写抑制に働く。しかし、細胞内でHDACがどのような活性制御を受けているのかについては不明な点が多い。我々はHDAC複合体により転写調節を受ける出芽酵母減数分裂初期遺伝子IME2において、転写活性化に先立って起こり、活性化に必須なURS1(HDAC複合体の結合部位)近傍のH3アセチル化レベル上昇がHDAC存在下に起こっていることを見出した。一方、ヒストンアセチル化酵素Gcn5のURS1への安定な局在化は、減数分裂開始時においても観察されなかった。これらの結果は、URS1に結合したHDACの活性が、時期特異的に抑制される可能性を示唆していた。URS1は減数分裂遺伝子以外の遺伝子上流にも存在する。IME2-URS1のH3アセチル化は酢酸を炭素源とする培地中(YPA)で起こるため、網羅程遺伝子発現解析のデータベースからHDACに依存した転写抑制を受けYPAで転写が活性化される8種の遺伝子を選抜し、これらについてYPDおよびYPA培地で培養した細胞を用いてURS1近傍のH3アセチル化とHDACの局在を調べた。この結果、すべての遺伝子でHDAC存在下にH3アセチル化が起こっていることを見出した。そこでHDACを免疫沈降で回収し、YPDからYPAさらに胞子形成培地への移行に伴うHDAC活性の経時的変化について検討したところ、Ume6を含むRPD3L複合体の比活性がYPAと胞子形成培地移行初期に低下すること、およびRPD3L特異的な構成因子Sds3のリン酸化がこの時期に起こることを見出した。現在、Sds3のリン酸化とHDAC活性の変化との関連について調べている。
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