イトマキヒトデの初期胚においてクロマチンが発生進行とともに変化する過程を生物有機化学的に解明することを目的として、以下の研究を進めた。核型トランスグルタミナーゼによって初期胚において二量化ヒストンが生成されるが、その化学構造を決定することを試みた。すなわち、胞胚期後期からクロマチンに形成されてくるヒストンH2BとヒストンH4の架橋二量体p28を中期原腸胚から精製・単離し、通常のマイクロシーケンス分析を施したところ、N末端の31アミノ酸残基は1箇所を除いてヒストンH2B単量体の配列と同一であった。異なるのは9番目の残基で、これは同定できなかった。p28をAzotobactor lyticusプロテイナーゼまたはV8プロテイナーゼで断片化し、得られた断片ペプチドをHPLCで精製した後、Tof Mass分析、アミノ酸分析、アミノ酸シーケンス分析した結果、断片F3を除いてすべて胚ヒストンH2BとH4のプロテアーゼ分解物と同一の配列であった。F3の構造はPositive-ion fast atom bombardament-tandem質量分析によってヒストンH4のN末端にアセチル化されたセリン残基を有するオクタペプチドにおいて、5位のリジン残基がヒストンH2Bの31アミノ酸残基からなるN末端ペプチドの9位グルタミン残基とε-(γ-glutamyl)lysine架橋したイソペプチドであることが判明した。また、Maldi-Tof質量分析から、p28のヒストンH4配列において、16位リジン残基が部分的にアセチル化されており、20位リジン残基がモノ、またはジメチル化されていることが明らかになった。このほかに、二量化ヒストンp30が存在し、その化学構造がヒストンH2Bの鎖間でε-(γ-glutamyl)lysine架橋したイソペプチドであることが判明した。初期胚クロマチンにおいてこのように特異な翻訳後修飾が生起することの発生学的意義については、今後に残された問題である。
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