研究概要 |
強力な抗腫瘍作用を有するバンレイシアセトゲニン類の全合成を達成し、構造活性相関研究を通してその標的分子の探索等を行うことを主な目的としている。まず、立体化学が未だ不明であるモンタナシンDやカムバリニンの構造決定に有用なテトラヒドロピランユニットの効率的合成法を開発した。分子内付加反応を基盤としたこの環状エーテル合成法は、近傍水酸基が遊離であっても高選択的に進行するため、種々の誘導体の合成が可能であった。この反応を活用してモンタナシンDの右半分に相当するラクトン部分を構築した。また、シャープレスの不斉酸化反応等を利用してモンタナシンDの左半分テトラヒドロフラン誘導体を合成した。当初の予定であったこれら2つのセグメントの分子間メタセシス反応によるカップリングは、いくつか条件を検討したにもかかわらず不成功に終わった。一方、スペーサーを介して両分子をつなぎ、分子内でカップリングさせたところ高收率でモンタナシンDの全炭素骨格を構築することに成功した。バンレイシアセトゲニン類は細胞毒性や数種のcancer cell lineに対する阻害作用の報告はあるものの、DNAポリメラーゼ、トポイソメラーゼ等の酵素に対する作用は報告されていなかった。こういった酵素の阻害剤は有望な抗腫瘍剤になる可能性が高いため、合成品並びにそれらの立体異性体を用いて、ポリメラーゼ、トポイソメラーゼおよびhuman cancer cell line、HL-60に対する阻害作用を調べた。その結果、モノテトラヒドロピランアセトゲニンであるピラニシンが強力な阻害作用を示した。詳細なバイオアッセイを行ったところ、ピラニシンは哺乳類のポリメラーゼに特異的に作用し、植物ポリメラーゼや微生物起源の酵素等には効果が少ないことを見いだした。また、humanトポイソメラーゼI,IIにも効果的であった。
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