抗酸化物質として活性酸素種を直接消去する作用が注目されていたフラボノイドなどの食品由来ポリフェノールには、シスチン・グルタミン酸トランスポーター(xCT)を介した組織や血漿におけるレドックスの制御というこれまでに知られていない機能を有する可能性が推定された。シスチン・グルタミン酸トランスポーターは、内在性抗酸化物質として中心的な役割を担うグルタチオン(GSH)の合成や細胞外のレドックスバランスを維持するのに必須の分子であることが知られている。前年度の研究により、ケルセチン等のフラボノイドは、xCTを誘導し、細胞内グルタチオンレベルを上昇させることが明らかとなった。本年度は、特にxCTにより形成されるレドックスバランスの生理学的意義について、xCT遺伝子欠損マウスを用いて検討した。まず、レドックスバランスの変化が、生体の諸機能にどのように影響を与えるかを調べるために、免疫系細胞のサイトカイン等の産生能について解析を行った。その結果、xCT遺伝子欠損マウス由来の腹腔マクロファージにおいて、野生型に比べて一酸化窒素産生能が低下することがわかった。しかし、IL-1等のサイトカイン産生能には有意差は認められなかった。個体レベルでの種々の病態におけるレドックスの影響を調べるため、パラコート投与による酸化ストレス負荷を行ったところ、xCT遺伝子欠損マウスの生存率が有意に低下することがわかった。また、この時、肺のグルタチオンレベルが野生型に比べて低くなることが示された。一方、脳虚血再灌流モデルにおいては、xCT遺伝子欠損マウスの方が野生型マウスに比べて梗塞による傷害部位が大きくなるという結果が得られた。これらの結果は、xCTが、酸化ストレス負荷に対し、生体防御の観点から有利に働く場合と不利に働く場合があることを示唆していると考えられた。
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