研究概要 |
本研究は、表皮系リポキシゲナーゼ(LOX)によるn-3系脂肪酸代謝の全容と、そこで生成されうる新規生理活性物質の網羅的解明を目指すものである。初年度は、まず、脳および網膜といった神経組織に集中的に蓄積される重要なn-3系脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)に着目した。DHAの代謝物は、抗炎症等の多彩な機能を持ち、これらによる神経組織の死滅の抑制、ひいては、脳機能および網膜機能の保全に役立てられる可能性がある。本年度は、ヒト15LOX2およびそのマウスホモログである8LOXによるこのDHA代謝を重点的に解析した。先ず両酵素を、大腸菌発現系およびその後のアフィニティー精製により調製し、DHAとの反応を詳細に解析した。15LOX2は、DHAから17S-ヒドロペルオキシDHA(17S-HPDHA)を特異的かつ定量的に生成することが判明した。これは、一連の反応系列における初発段階として、15LOX2が非常に有効な触媒であることを示唆するものであった。一方、8LOXは、単独で2度の連続する反応を触媒し、特異的に10S,17S-ジヒドロペルオキシDHA(10S,17S-diHPDHA)を生成することが判明した。この10S,17S-diHPDHAは、DHAから生成する既知の神経保護因子と非常に類似した構造を持つ化合物であり、その生理機能の解析が今後の急務である。また、今回解明された8LOXの機能は、現在、10S,17S-diHPDHAを特異的に生成する唯一の反応系であり、この化合物から派生する生理活性物質を調製する際には、貴重な調製手段を提供できる。これらの研究成果は、先の日本農芸化学会で報告し、また、現在、投稿論文を執筆中である。
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