研究課題
本研究は、β-カロテンが免疫系に対して影響を及ぼすメカニズムを解析することを目的としている。昨年度の研究で、β-カロテンを摂取したマウスの脾細胞およびそこに含まれる抗原提示細胞を実験材料に種々の検討を行った結果、β-カロテンを摂取したマウスでは、脾細胞内のグルタチオン量が亢進していることを見出した。さらに、脾臓細胞のプラスチック付着画分(抗原提示細胞リッチ画分)において、カテプシンB+L活性が亢進していることが判明した。カテプシンは抗原提示において重要なリソソームプロテアーゼであり、中でもカテプシンB及びカテプシンLは、活性中心にシステイン残基を持ち、レドックス感受性であることが知られている。従って、脾細胞に含まれる抗原提示細胞に蓄積したβ-カロテンが、細胞内のグルタチオン合成を誘導した結果、細胞内の抗酸化性が亢進し、活性中心が抗酸化的に保護を介してカテプシンB+L活性が亢進したものと考えられる。本年度はマウスマクロファージ培養細胞RAW264を用いて、培地にβ-カロテンを添加することにより、その作用のより詳細な分析を行った。その結果、β-カロテン蓄積後、細胞膜の脂質過酸化が起こり、その後グルタチオン量の増加が生じることが判明した。このグルタチオンの増加は、活性酸素による情報伝達を必要とするLPS誘導性のサイトカインmRNA産生を抑制した。これらの応答はいずれも培地へのβ-カロテン添加濃度との相関性が認められた。以上の成果は、β-カロテンの免疫調節機能に対して、科学的根拠を与えるものである。一方、β-カロテンのグルタチオン合成への影響を遺伝子レベルで証明すべく、グルタチオン合成酵素(γ-グルタミルシステインリガーゼ)の転写調節をモニターする目的で、そのプロモーター領域のDNA配列を長さを変えて挿入した発現プラスミド数種を作製じ、これをRAW264細胞ヘトランスフェクトすることによるルシフェラーゼアッセイを行ったが、シスエレメントを特定するには至らなかった。これについては、今後の更なる検討を必要としている。
すべて 2008
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Bioscience, Biotechnology and Biochemistry 72
ページ: 1595-1600
フードリサーチ 通巻637号
ページ: 30-35