研究概要 |
申請者らはこれまでに、低タンパク質食摂取による低栄養ストレスと酸化ストレスが、いずれもシグナル伝達分子であるmammalian target of rapamycin(mTOR)の不活性化を介してインスリン様成長因子結合タンパク質-1(IGFBP-1)遺伝子発現を増加させ、IGFBP-1が体タンパク質同化ホルモンであるIGF-I活性を抑制することにより動物の低成長を引き起こす可能性を見いだしてきた。そこで本研究では、ストレスに応答したIGFBP-1遺伝子転写制御の共通性の高い分子機構を解明することを目的として研究を行なった。 2008年度は、低タンパク質食摂取(低栄養ストレス)によるmTORを不活性化に酸化ストレスがどのように関与するかを、mTOR制御下にあるIGFBP-1mRNA発現制御を指標として解析した。Wistar系雄ラットを低タンパク質食で7日間飼育するとIGFBP-1mRNAレベルが上昇し,インスリンによるIGFBP-1mRNA低下作用も阻害された。また、グルタチオン量が低下し、酸化ストレスマーカーが上昇した。抗酸化成分の同時摂取によって酸化ストレスレベルを低下させると、低タンパク質食摂取によるIGFBP-1mRNAレベルの上昇が抑制される一方、インスリンによるIGFBP-1mRNA発現抑制作用は回復しなかった。mTORリン酸化およびmTOR基質のリン酸化は、抗酸化成分の摂取の有無にかかわらず抑制されていた。一連の結果から、低タンパク質食摂取により酸化ストレスを介して基礎的なIGFBP-1合成が増加する一方、インスリンによるmTORを介したIGFBP-1合成抑制は低タンパク質食摂取により酸化ストレス非依存的に阻害されることを示した。これらの結果から、ストレスによる体タンパク質異化の促進は、抗酸化物質の摂取で一部が抑制可能であることを示した。
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