1.目的:我々はこれまでに、ヒト母乳中に食物抗原が分泌型IgAとの免疫複合体として存在していることを明らかにしてきた。本研究は、母乳中の免疫複合体がこれを飲んだ乳児における経口免疫寛容の誘導因子である可能性を、動物実験により明らかにするために行った。 2.方法・結果:食餌中のタンパク質が卵白由来のみのE群、牛乳由来のみのM群に分けてラットを飼育した。E群、M群の母乳中に各々の食餌タンパク質とIgAとの免疫複合体が検出された。M群の母乳のみで育った3週齢のラットに卵白タンパク質を免疫した場合には、オボムコイドに対するIgGが産生されるのに対し、牛乳タンパク質を免疫した場合には、カゼインに対するIgG産生の抑制が見られた。一方、E群の母乳のみで育った3週齢のラットに卵白及び牛乳タンパク質を同時に免疫したところ、カゼインに対するIgGは産生されたが、オボムコイドに対するIgG産生には抑制が見られた。さらに、このE群母乳でみられた経口免疫寛容は、離乳後卵白餌を与えなければ解除される可逆的なものであった。同様の結果はマウスでも見られた。 3.考察:母乳は食物アレルゲンに対する経口免疫寛容成立のワクチンとして機能しており、母乳哺育がすでに離乳食の開始である可能性が示唆された。母乳哺育の利点に関してはこれまでたも免疫学的のみならず栄養学的、精神的に数多くの報告があるが、食物アレルギーの予防に積極的に関与していることを示した意義は大きいと考える。さらに、本結果は母乳哺育の推進に役立つことはもちろん、授乳婦の食生活の管理・適切な授乳法と言った、良質な哺乳を介した健康的かつ経済的な食物アレルギーの軽減・予防にも寄与すると考えている。
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