研究概要 |
伊豆諸島三宅島は2000年に大噴火し、島の生態系は大きな影響を受けた。本研究では、三宅島の2000年噴火後の生態系の変化を明らかにするために以下の研究を行った。 1.衛星画像解析:三宅島2000年噴火前4時期、噴火後8時期の合計12時期衛星画像データを用いて、三宅島2000年噴火後の植生変遷パターンを現す地図を作成した。さらに、火山ガスによる植生被害の拡大状況及び三宅島の植生回復過程を評価した。その結果、衛星画像によって分類された植生変遷パターンを示す各グループに対して,噴火直後及びそれ以降の植生回復過程に着目して,次のような解釈が成り立つものと考えられた。A:噴火による被害演認められずに樹林地に覆われた地域、B:噴火により樹木が徐々に衰退し,樹林地が草地に置き換わりつつある地域、C:噴火直後に樹木が衰退したが,樹林地が草地に置き換わって植生が回復する過程にある地域、D:噴火直後の植生被害が大きく,その後に草地として植生が回復する過程にある地域、E:噴火直後に植生が失われ,その後も回復していない地域、F:噴火前から植生の乏しい地域。 2.植生の種組成の変化:2001年から設置した固定調査区において、植生と樹木の定着状況の現地調査を行った。その結果、全体としては、ハチジョウススキの優占度が高いこと、ピサカキなどの火山ガスに耐性のある特定の樹木実生の侵入が著しいことなどが明らかとなった。 3.噴火被害地の土壌と植生:植生と土壌の相互関係を明らかにするために、三宅島北西部に標高傾度に沿った3地点の固定調査区を設置し、土壌試料のサンプリング、地上部バイオマスの刈取、地下部の堀取、植生調査等を行った。さらに、これらのデータを元にして、植物体地上部および地下部、土壌中の炭素蓄積量の推定を行った。その結果、生態系の初期形成段階における植物系と土壌系の炭素蓄積量を定量的に明らかにすることができるとともに、土壌に対する植物体の炭素蓄積量の割合演、植生が未発達な地点ほど小さいことが示された。このような初期段階の土壌中の炭素蓄積は、化学合成細菌の活動の関与が考えられ、生態系の初期形成過程に関して重要な示唆を得ることができた。 4.導入イタチの生息状況調査:再捕獲法によりイタチの生息数調査を行った。 5.甲虫の生息状況調査:トラップ法により調査を行った。 6.鳥類の生息状況調査:2001年より継続している調査ルートにおいて鳥類のセンサス調査を行った。 7.ピサカキの繁殖にかかわる生物間相互作用:ヒサカキの種子散布系に着眼して、その繁殖に関する調査と鳥の糞の解析を行った。その結果、噴火はヒサカキの着葉に負の影響を与えるものの花芽の形成にはほとんど影響を与えないが、噴火の影響が大きいところでは果実の死亡率が高く、その結果、結果率を下げることが推察された。果実の消失率は、噴火の影響程度の異なる地点で差が見られず、鳥類の散布される種子の大半をピサカキが占められており、ピサカキの種子散布系は維持されていると考えられた。
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