研究概要 |
本研究では、カンバ類の癌腫病菌であるカバノアナタケIO-U1株に感染したシラカンバ幼植物体No.8に生成する、感染初期における菌感染特異的タンパク質の検出・同定を行った。組織培養によって大量に増殖させた3ケ月生無菌幼植物体に、菌を接種し、対照区(傷を付けたもの、無傷・無菌のもの)を同様に用意した。菌接種後2日目に植物体を収集し、急速凍結して粉末にし、これから緩衝液を用いてタンパク質を抽出した。得られたタンパク質サンプルを二次元電気泳動にかけ、ゲルを銀染色した。ゲルの画像解析により、対照区のものと比較して菌感染特異的タンパク質を検出した。その結果、合計735個のタンパク質スポットが検出され、その内169個のスポットが菌感染特異的タンパク質であると判明した。これら菌感染特異的タンパク質の内、91個のタンパク質をゲルから切り出し、ゲル内消化後、質量分析に供した。その結果、二つのヒートショックプロテイン(Hsp70及びHsp60)とグルタチオンS-トランスフェラーゼが同定された。これらの結果から、IO-U1株に感染した幼植物体No.8において、オキシダティブバーストと全身獲得抵抗性機構が防御反応として生じていることが推測された。本研究では、また、IO-U1株に感染した2種類の植物体No.8及び東北について、組織学及び組織化学的観察を行った。菌接種後、2,4,12時間、1,2,10,30日後に植物体を収集し、菌感染部付近の横断面切片を作成した。対照区についても同様に植物体を収集し、横断面切片を作成した。No.8においては、菌接種付近の木部及び形成層帯に、菌接種後12時間〜2日目においてフェノール性化合物の堆積が観察された。このフェノール性化合物の堆積は、菌接種後10,30日目において菌接種付近の木部細胞壁に顕著に観察された。また、同期間にリグニンの顕著な堆積も同じ部位に見られた。更に、菌接種後2日目以降、菌接種付近の厚壁細胞の発達が観察された。一方、東北においては、フェノール性化合物の堆積が菌感染後2時間以降に観察され、その堆積が10日目に最も顕著となった。ペルオキシダーゼ活性もフェノール性化合物の堆積部位に、この化合物の堆積と同様のパターンで認められた。また、スベリン化した壊死感染防御周皮(NP)の形成が、菌感染後30日目に観察された。これらの結果から、IO-U1株に感染したシラカンバ幼植物体No.8及び東北において、フェノール性化合物とその重合物の堆積、厚壁細胞の発達及びスベリン化したNPの形成が、菌糸の生育を抑制しているものと考えられる。
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