研究概要 |
本研究では、全身獲得抵抗性(SAR)を誘導することが知られているサリチル酸を、シラカンバNo.8幼植物体に人為的に投与し、植物体内でSARが生じるかどうかプロテオーム解析手法により解明することを試みた。組織培養によって育成した3ヶ月生無菌幼植物体に、0.5mMサリチル酸水溶液を1μL投与した(T)。対照区(無傷・無投与のもの(C1),超純水1μL投与したもの(C2))も同様に用意した。処理後2日目に各植物体を採集し、急速凍結・粉砕後、タンパク質溶液を調製した。これを等電点電気泳動にかけ、ゲルをクーマシーブリリアントブルー染色した。ゲルの画像解析を行い、各処理区に特異的なタンパク質スポットを検出した。その結果、C1では17個、C2では9個、Tでは20個、それぞれ特異的なスポットが検出された。Tに特異的なスポットを別のゲルから切り出し、ゲル内消化後、マトリックス支援レーザーイオン化・飛行時間型質量分析計で分析した。その結果、8種類のタンパク質(non-expresser of pathogenesis related 1(NPR1)-like protein ; predicted protein ; hypothetical protein ; oxygen evolving enhancer protein 2(OEE2) ; hypothetical or unknown protein ; Cerotodon purpureus phytochrome photoreceptor CERPU ; PHYO ; 2(CpPHY2) ; unknown protein ; MADS-domain transcription factor(MADSdtf)が同定された。(NPR1)-like proteinは、NPR1と同様に核内に移行して転写因子TGAに作用し、PR遺伝子発現を誘導すると考えられる。OEE2は、抗菌性二次代謝産物の生合成及びSARを誘導すると思われる。CpPHY2も、SARを誘導する可能性が考えられる。MADSdtfは、何らかのタンパク質発現を調節し、抵抗性を誘導していると予想される。これらの結果から、サリチル酸投与により、シラカンバNo.8幼植物体内にSARが誘導されることが明らかになった。
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