研究概要 |
1.柏市のこんぶくろ池周辺に生育しているズミ集団の保全方法の検討のために,こんぶくろ池を含む関東地域7集団の遺伝的構造と花の形態変異を調べた。アロザイム分析の結果,全集団の遺伝子多様度は0.264と高く,遺伝的分化係数は他殖性の動物散布型植物の平均的な値だった。全体のヘテロ接合度期待値は0.22と双子葉植物としては高い値を示したが,こんぶくろ池集団のそれは0.247でもっとも高かった。また,自家不和合性対立遺伝子組成を,結果率が低いこんぶくろ池集団と結果率が高い玉原湿原集団で比較したところ,前者の多様性が高かった。これらのことから,こんぶくろ池集団の遺伝的劣化は生じておらず,別の理由によって結果率の低下が生じていると考えられる。アロザイム分析より得られた遺伝的距離より作成した系統図からは,こんぶくろ池集団は東関東グループに属すると考えられた。しかし,花の形態は地理的グループにとらわれない独特な特徴を持っており,適応的変異が生じていることを示唆している。 2.江戸期およびその後のこんぶくろ池周辺の牧の景観を明らかにするために,小金牧周辺野絵図,中野牧、壱本椚牧、下野牧図,小金牧大絵図,小金牧絵図,小金原勝景絵図,富士三十六景下総小金原,四州真景図釜原,手書彩色關東實測図などの絵地図、絵図の検討,古文書の検討,古老への聞き取り調査を行った。その結果,牧草原は単一な植生ではなく,ススキなどの長草型の草原や,ネザサやシバなどの短草型の草原が混在していたことがわかった。牧内には林もあったが,こんぶくろ池周辺はクヌギを主とする立木密度の低い御林であり,その後,昭和期にマツやスギが多くなったことがわかった。また,昭和12年に十余二に約300haの広大な柏飛行場が作られ,その後,湧水量が減少したことがわかった。
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