本研究では、落葉樹林に生育する低木アオキが、林床の変化する光環境でどのような炭素獲得特性および繁殖への配分特性を持つのか、また雌雄異株植物であるアオキは性間でその特性が異なるのかを明らかにすることを目的とした。 当年葉は、林冠の着葉期には低い暗呼吸速度と光補償点によって弱光下でも正の炭素獲得量を達成し、冬の落葉期には高い光合成速度を維持して夏期よりも多い同化産物を生産した。これらの光合成特性は、季節により光環境の変化する林床に適応的なものであると考えられる。一年生シュートレベルでの転流関係の推定では、最も結実したシュートではシュート上の当年葉だけでは果実が必要な同化産物量を賄えないことが示唆された。しかし、一年葉は当年葉の約85%の光合成速度を持ち、同化産物が不足する期間に正の炭素獲得を達成した。 栄養器官への炭素配分量は葉乾重合計と当年生シュートボリュームにおいて雄が高い値を示した。繁殖への投資量は、雌の果実への投資量が雄の花序への投資量を上回った。つまり、アオキでは繁殖への高い同化産物の投資量が、雌における繁殖と栄養成長との間のより強いシュートレベルのトレードオフの関係を生み出していると考えられる。一方、雄の最大総光合成速度は雌より高かったが、弱光下の光合成速度に差はなく、1日あたりの炭素同化量に性差は見られなかった。葉面積合計には雌雄間で配分に差がなかったため、雄と同等の一年生シュートボリュームを持つ雌は雄と同量の同化産物量を獲得できると考えられる。 果実は呼吸で放出するCO_2を80%以上の割合で再固定できる光合成能力を持つが、林床での1日あたりの再固定率に換算すると3-8%であった。また、果実の被覆は果実乾重に有意な影響を与えなかった。したがって果実の光合成は、林床環境では繁殖コストの低減にそれほど重要ではないと考えられる。
|