本研究は、河川内の食物網に着目し、河川生物群集に対する食物資源の供給という点から人工林の機能を明らかにすることを目的としている。具体的には、人工林と天然林とで以下6点に関して比較し、人工林の特徴を抽出することを計画している。(1)河川に供給されるリター(底生無脊椎動物の餌)の量、質、およびその季節的動態、(2)河床に堆積しているリター現存量の季節的動態、(3)河川内におけるリターの分解速度、底生無脊椎動物のリターに対する選好性、(4)河川に供給される陸生昆虫(魚類の餌)の量、質、およびその季節的動態、(5)魚類の森林由来の餌に対する依存度、および(6)魚類および底生無脊椎動物の個体数、現存量および群集構成。 2008年度(H20)は、これまでに設定した調査地6地点で得られたサンプルの処理、解析を行うとともに、河川流下物量の広域パターンを明らかにするために新たな調査地を設定し、サンプル採集を行った。今年度の解析で明らかになったのは以下のとおり。(a)底生無脊椎動物の全ての分類群が、スギ(人工林由来)リターよりも広葉リターを選好した。(b)しかし、スギ人工林と天然林とでは、底生無脊椎動物の総個体数には顕著な違いは見られなかった。ただし、群集構成は大きく異なった。(c)河川に供給される陸生昆虫および流下する無脊椎動物はともに入工林よりも天然林で多い傾向があり、その差は夏以外で特に大きかった。(d)魚類(アマゴ)はその餌の大半を陸生由来の無脊椎動物に依存しており、アマゴの現存量は、人工林よりも天然林で高い傾向が認められた。これらのことより、アマゴにとっては、人工林(スギ)よりも天然林(落葉広葉樹)のほうが環境条件として好ましいことが示唆された。
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