研究概要 |
琉球列島のマングローブ内生菌相を明らかにするため、西表島と沖縄島のマングローブに調査地を設置し、ヒルギ科3樹種と後背の陸上森林の代表的な樹種について、健全な枝葉からの樹木内生菌(真菌類)の分離試験を試みた。また、あわせて、調査地における環境条件及び宿主樹木の状態を時系列的に調査した。 特に、琉球列島において広く発生しているメヒルギ枝枯病の病原Cryphonectria liukiuensis(子のう菌)と内生菌相との関係に注意を払って検討した。その結果、本菌はヒルギ科3樹種から極めて低率で分離された。また、陸上林林の構成樹種からも類似の形態の菌株が同様に低率で分離された。従って、本菌がマングローブやその後背林において内生菌として存在していることはないものと推測された。また、本菌の発病・進展が直接に宿主の内生菌相と相互関係を有していることを示す知見は得られなかった。 琉球列島のマングローブにおいては、Phomopsis,Colletotrichum,phyllostictaの3属の菌が優占していることが研究代表者らによる既往の研究により明らかにされつつあったが、本研究においてそのことが確かめられた。さらに、後背林の樹種の多くからもこれらの菌は高率で分離された。すなわち、これらは広範囲の宿主に寄生し、かつ優占的に内生しているグループと言える可能性がある。一方、マングローブには低率で分離される菌類が多数存在し、また、後背林の構成樹種には、マングローブの内生菌類とは菌種・分離頻度が異なるものもあった。これらの解析が、陸上森林とマングローブの内生菌相の異同を明らかにする鍵になろう。 西表島の調査地では2007年には台風の強い影響を受けたので、2008年以降との比較により、樹木内生菌相の攪乱要因としての台風の影響についても、知見が得られる可能性がある。
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