木本植物の茎は、木部にあて材を形成することで屈曲による姿勢制御をしている。双子葉植物は主に屈曲したい側に引張あて材を形成し、その強い引張の成長応力によって茎を曲げる。引張あて材の成長応力は、主に木部繊維細胞壁のG層が発生していると言われている。キシログルカンを分解する酵素であるキシログルカナーゼの遺伝子を導入した組換え体ポプラは引張あて材形成による成長応力の発生が極めて弱く、本組換え体ポプラの引張あて材細胞壁G層の微細構造を電子顕微鏡で解析することにより、引張あて材細胞壁G層におけるキシログルカンの構造的役割を明らかにすることを目的とした。当初の計画では、急速凍結・ディープエッチング法や超薄切片法など、透過型電子顕微鏡を用いることになっていたが、実際に実験を行ってみると、解析対象とする引張あて材細胞壁G層のハイスループットな観察が難しく、また、キシログルカナーゼ組換え体と野性型ポプラの引張あて材細胞壁の違いを明瞭にすることができなかった。このため、観察機器を電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM)に変更し、キシログルカナーゼ組換え体と野性型ポプラの引張あて材の横断面を直接観察することとした。その結果、組換え体では、亀裂のみられるG層が多く、セルロースフィブリル同士がほぐれた様な状態が多く観察された。また、組換え体で観察された状態は、野性株引張あて材を試験管内でキシログルカナーゼ処理することによって模倣されたため、野性株にみられたフィブリル間の接着・充填様の微細構造はキシログルカンによって形成されていることが明らかとなった。
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