研究概要 |
4-クロロアニリンを代表とする有機塩素化合物が植物中のリグニンのどの部位と反応するかを知るために,4-クロロアニリンとコニフエリルアルコールを酵素存在下で脱水素重合させ,得られた針葉樹型重合物(G-C1-DHP)をテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)の存在下でCurie-point熱分解し,得られた生成物をガスクロマトグラフ/質量計(GC/MS)により分析を行った.生成物としてβ-O-4単位のグァイアシルグリセロール部分のα-位とアニリンが縮合した[1-(3,4-dimethoxyphenyl)-2, 3-dimethoxypropyl](4-hlorophenyl)amine(1)およびフェノールとCβ位のアルコール性水酸基を通じてβ-O-4結合により他の構成単位と結合したintemalβ-5単位のa一位と縮合したアニリンの可能性を示したが、後者は三量体のためGC/MSでは検出できなかった.そこで、G-DHP中のintemalβ-5単位のTMAH-GC/MS生成物を精査した.しかし、TMAH存在下での直接導入-MS法で見られたinternalβ-5単位の主要生成物のスチルベン[2,3,3',4'-tetramethoxy-5-(1,2,3-trimethoxypropyl)stibene](2)は少量しか生成しなかった.代わりに,β-O-4結合の切断それに続く逆アルドール反応により側鎖が短くなったスチルベン2,3,3',4'-tetramethoxy-5- formyl-stilbene(3)が主要生成物として得られた.そこで、G-C1-DHPおよびG-DHPのTMAH-GC/MSを再検討したところ、G-DHPで主要生成物であったスチルベン3はG-C1-DHPではまったくみられなかった.このことは、internalβ-5単位の大部分が4-クロロアニリンと反応したことを示すものである.したがって、4-クロロアニリンの取り込み部位として、リグニン中のinternalβ-5単位およびinternal/terminalβ-O-4単位が提唱された.また,スチルベン3の生成はリグニン中のintema1β-5単位の存在を示す有用な指標となり,リグニン化学に貢献する成果と思われる. シナピルアルコール+コニフェリルアルコールの混合物と4-クロロアニリンの脱水素重合物(S/G-C1-DHP)およびシナピルアルコールと4-クロロアニリンとの脱水素重合物(S-C1-DHP)中にはそれぞれ1に対応するアミン縮合物が確認され、4-クロロアニリンが広葉樹リグニンとも反応することを示したが、取り込み量はG-C1-DHPと比べて少なく、シリンギル基の影響が見られた(G-C1-DHP>S/G-C1-DHP>>S-C1-DHP).
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