研究概要 |
微生物の指標物質であるリン脂質脂肪酸(PLFA)を試料から抽出し,分析することにより,森林内での初期の木材腐朽過程における微生物群集構造遷移の動態を明らかにする目的で,広葉樹林の尾根部,斜面部,谷部およびスギ人工林内に設置した試験地に,コジイおよびスギ心・辺材から調製した木杭(3cm×3cm×30cm)を深さ15cmまで埋設した。 今年度は試験地の土壌,および埋設から2ケ月経過後の木杭表面の微生物群集構造をPLFA分析法により分析し,さらに杭表面の腐朽状況を,SEMを用いて観察した。 土壌中の,微生物生体量としての総PLFAおよび他の微生物指標PLFAは各試験地間に有意な差は見られなかったが,真菌とバクテリアの比は広葉樹林の尾根部が斜面部およびスギ林と比べ有意に高く、また、グラム陽性菌とグラム陰性菌の比は、尾根部が他の試験地と比べ有意に低かった。よって、尾根部の土壌は他の試験地とは異なる微生物群集構造を有することが示唆された。この原因としては、尾根部の含水率およびpHが他の試験地と比べ有意に低いことから、その土壌化学特性の違いによって微生物群集が影響を受けたためと考えられた。また、木杭についてはコジイ木杭の総PLFA量および真菌の割合がスギ心・辺材と比べて高く,重量減少率もコジイが他の材に比べ高くなる傾向が見られた。一方,供試杭の表面を,SEMを用いて観察したところ,菌糸が柔細胞,仮道管および道管の内部で広がっており,とくに,柔細胞の周りの仮道管内部・道管内部に多く見られ,壁孔を通って侵入していた。単位面積あたりの菌糸長さは,コジイ,スギ辺材,スギ心材の順に多く,試験材の種類によって有意な差が認められたものの,試験地や1本の杭の中の位置による影響は小さかった。
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