研究概要 |
微生物の指標物質であるリン脂質脂肪酸(PLFA)を試料から抽出し,分析することにより,森林内での初期の木材腐朽過程における微生物群集構造遷移の動態を明らかにする目的で,広葉樹林の尾根部,斜面部,谷部およびスギ人工林内に設置した試験地に,コジイおよびスギ心・辺材から調製した木杭を深さ15cmまで埋設した。 今年度は3カ所の試験地のうち,尾根部に埋設してから2年間経過後の木杭表面の微生物群集構造をPLFA分析法により分析した。 その結果,木杭の腐朽率は,コジイ,スギ辺材および心材ともに,埋設期間が長くなるほど増加する傾向が認められ,とくにコジイ材では24ヵ月経過後には約16%に達していた。3種類の試験材で腐朽率を比較すると,広葉樹のコジイは,針葉樹スギの辺材,心材と比較して約2-3倍高くなる傾向が見られた。木杭表層部の微生物バイオマスの指標となる総PLFA量は,3試験材ともに,12ヶ月後までに急速に増加したが,12ヶ月から24ヶ月にかけては,大きな変動は認められなかった。24ヶ月目で比較すると,スギ心材,スギ辺材,コジイの順に微生物バイオマスは高くなり,針葉樹と広葉樹とでは大きな差があることが示された。群集構造についてみると,コジイ材では,真菌の割合に埋設期間に伴う一定の傾向は認められず,わずかながらも放線菌に増加傾向が認められた。スギ辺材では12ヶ月以降真菌の増加は認められず,グラム陰性菌の増加以外に群集構造の大きな変動は検出されなかった。一方,スギ心材では,埋設期間が長くなるほど,真菌とグラム陽性菌の割合が増加し,グラム陰性菌の割合が減少する傾向が認められた。 以上の結果より,木杭表層部の群集構造は,コジイ材とスギ辺材では腐朽のごく初期に大きく変動するが,スギ心材では2年間にわたり遷移が認められ,2年後には3試験材ともにほぼ同様の群集構造を示すことが明らかとなった。
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