研究概要 |
魚類を含む脊椎動物の成長には、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor, IGF)-Iが重要な役割を果たしている。しかし、IGF-Iの活性は6種類のIGF結合蛋白(IGF-binding protein,IGFBP)によって厳密に調節されている。これらのIGFBPの機能はタイプにより異なるが、大まかにIGF-Iを介した成長の「促進型」と「阻害型」に分けられる。サケ科魚類の血中には少なくとも3種類のIGFBPが検出されるが、それぞれがどのタイプに相当するのかは非常に混乱している。本研究はこれらのIGFBPの同定を行って上述の混乱を解決することを目的としている。昨年度は、サケ科魚類の血中IGF-Iの主要な運搬役であり、成長の「促進型」と考えられている41kDaのIGFBP(41KBP)およびIGFBP-3のcDNAクローニングを行った。本年度は、さらにもう一種類のIGFBPをクローニングするとともに、発現解析を行った。新たに得られたIGFBPのアミノ酸配列はIGFBP-2に最も近かった。また、41KBPも同じタイプに分類されたため、これらは遺伝子の重複によって生じたパラログであると考えられた。両者のアミノ酸配列から、41K BPをIGFBP-2b、そしてもう一方をIGFBP-2aと呼ぶことが妥当であると考えられた。二つのIGFBP-2の発現は主に肝臓で認められた。一方、IGFBP-3の発現は肝臓で非常に低く、血中の主要な成分にはなりにくいと考えられた。以上、本研究によってサケ科魚類の41K BPは、従来推測されていたIGFBP-3ではなくIGFBP-2bであることが証明された。このことから、サケ科魚類のIGFBPの機能は哺乳類とは大きく異なることが示唆され、脊椎動物の成長のメカニズムを理解する上でユニークなモデルとなる可能性がある。
|