産卵行動中のサクラマスにおいて、食卵行動は残留型のみにみられる。また、オス親による子の保護行動がないため食卵行動と繁殖成功の関係は複雑ではない。そこで、野外の繁殖集団(然別湖個体群)において残留型の食卵行動と繁殖成功がどのように関係しているか調べた。また、体サイズ、個体の順位および競争者の数といった繁殖集団の構成が食卵行動に与える影響についても分析した。17繁殖集団中13集団で、さらに産卵集団に参加した72尾の残留型のうち18尾が食卵行動を示した。これらの残留型は、スニークによる受精成功率とは無関係に食卵行動を示した。まだ、数尾の残留型は40-60%という高い繁殖成功を達成したにもかかわらず食卵行動を示した。食卵行動はスニークしようとするタイミングが影響しており、スニークするタイミングが遅れるほど食卵行動を示さない傾向にあった。体サイズ、個体の順位、および競争者の数が食卵行動に与える影響はみられなかった。食卵行動を示した残留型の胃内容に含まれていた卵の数は1-8個であった。これらの結果はそれまでサケ科魚類で一般的に考えられていた、食卵行動が放精に失敗した残留型と繁殖に無関係な未成熟個体によって行われる行動ではなく、サクラマスにおいては高い繁殖成功を得た残留型によってもなされることが示された。また、このような繁殖成功と関係ない機会的な食卵行動は、残留型にとって食卵行動に伴うコストが相対的に小さいことを示唆した。
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