〈意義、実験方法と研究成果およびその重要性〉 最近の研究報告から、トラフグ染色体に性特異的ゲノム領域(scaffold)が見つかり、その領域のDNA配列を用いたPCRによる多型解析法によりトラフグの個体レベルでの性判別が可能になってきている。申請者もこの方法を取り入れ、個体レベルでの性判別は現在可能になった。しかしこの識別法では種苗現揚ではコストと手間の面から実用性が低いのが現実である。魚類では生殖線の性分化時はステロイドホルモンや環境因子(温度など)に対して感受性が高いことが知られている。しかし、トラフグでは性的可塑性に関する研究報告はない。したがって、性特異的ゲノム領域を用いた性判別法を利用し、トラフグ稚魚期での性分化機構を詳細に調べることにより、全オス化の簡易性操作法の開発が期待できる。そこで本年度はトラフグ稚魚の飼育実験により性分化機構を解析した。具体的には生殖腺の性分化時期に女性ホルモン(エストロゲン:E2)合成酵素阻害剤等を暴露し、個体の性に偏りが生ずるかを調査した。 トラフグ稚魚期にE2合成を司る酵素であるアロマターゼ阻害剤を混合した飼料を与え、その後の血中ホルモンのレベルを測定し、生殖線の性分化過程を追跡した。その結果、アロマターゼによるE2の合成阻害により遺伝的メスの生殖腺が精巣化し、最終的に全てのトラフグが完全な精巣をもち、オス化することが明らかになった。生殖腺の性分化は非可逆的であり、通常の飼料に戻しても精巣が卵巣に転換することはなかった。一方E2の高濃度での暴露は部分的に精巣の卵巣化を促進するが大きな効果はなかった。これらの結果は、重要資源魚種であるトラブグではアロマターゼ活性の制御が性分化に重要であり、性の統御が可能であることを世界で初めて示した。
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