意義 海産魚のトラフグはゲノム解析が完了しており、遺伝的性決定を支配する染色体領域も明らかになってきた。しかし、魚類の性決定、性分化機構は曖昧さを含んでおり、我々の研究からトラフグもその例外ではないことが明らかになった。トラフグは遺伝的に雌雄が決定される魚種で、孵化後6週目に生殖腺の性分化が起きるが、女性ホルモン(エストロゲン)の合成酵素(アロマターゼ)阻害剤を含んだ食餌法により卵巣への分化が阻害され、機能的な精巣へと性転換が起きる。このため、阻害剤等を用いずアロマターゼ活性を安全に制御できれば、全オス化した白子を持つトラフグが食卓に並ぶことになる。しかし、トラフグではアロマターゼ発現までの機構は全く不明である。そこで本年度は、(1)トラフグ稚魚期の生殖腺の器官培養系を開発し、アロマターゼ発現機構をin vitroで解析した。(2)魚類のアロマターゼは脳型と卵巣型の2種類あるが、その役割分担は不明である。そこでそれぞれのmRNAの発現パターンを調査した。 実験方法と研究成果 (1)性分化前後のトラフグ稚魚から取り出した生殖腺の付着した筋肉塊を、脳下垂体放出ホルモンの一つである濾胞刺激ホルモン(FSH)存在下で培養をおこなった。その結果、FSHがアロマターゼの発現を活性化し、卵巣への分化、発達を促す研究成果を得た。これは裏返せば、性的未分化の稚魚期の脳下垂体からのFSH放出抑制またはその下流経路を遮断すれば、トラフグは全オス化することを示唆する。(2)RT-PCR法により、脳型アロマターゼは、脳だけでなく精巣でも発達とともに発現量が増加した。In situ hybridization法を用い、発現産物を解析した結果、その多くはスプライシング異常によるものであった。また、脳でも異常産物は確認できた。これは脳型アロマターゼの発現が魚類特有のスプライシング機構により調節される可能性を初めて示すものである。
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