意義 トラフグは遺伝的に雌雄が決定される魚種で、孵化後6週目に生殖腺の性分化が起きるが、女性ホルモンの合成酵素(アロマターゼ)の阻害剤を含んだ食餌により卵巣への分化が阻害され、機能的な精巣へと性転換が起きる。このため、阻害剤等を用いずアロマターゼ活性を安全に制御することが可能になれば全オス化した白子を持つトラフグが食卓に並ぶことになる。魚類から哺乳動物まで、アロマターゼの活性は脳下垂体から放出される生殖腺刺激ホルモンのうち、FSH(濾胞刺激ホルモン)の制御を受ける事が知られる。そこで本研究ではトラフグ初期生殖腺の器官培養系を利用し、FSH受容体下流のシグナル伝達機構の中でも特にアロマターゼ発現の解析を行った。 実験方法と研究成果 6週齢前後の性分化前後のトラフグ生殖腺を、ブタ精製FSH、またカイコ血清中に分泌させた組換えトラフグFSHを加え培養を行い、生殖腺でのアロマターゼの発現を免疫組織化学法により解析した。使用した個体の遺伝的性は性決定領域から設計したプライマーを用いSTR法により決定した。コントロール区において卵巣ではすでにアロマターゼの発現が確認できたが、FSHの添加によりアロマターゼは消失した。一方、精巣ではコントロール区においてはアロマターゼの発現は見られなかったが、FSH添加により発現の上昇が確認できた。性分化期の脳下垂体ではFSHの発現は検出不可能なほど低いため、FSHが発現しないことが正常な性分化に重要と考えられた。またFSH受容体下流のシグナル伝達系もこの時期にすでに完成しておりFSHを添加することにより、未分化生殖腺でのアロマターゼの発現パターンが逆転する事が明らかになった。この結果は、FSH添加により試験管内でアロマターゼ発現を指標とする性転換が起きたことを意味する。
|