天然トラフグ稚魚と、同サイズの人工種苗の行動特性の定量・比較と種苗性の指標行動の抽出を実施した(業績1、2)。 まず、天然トラフグ稚魚と人工種苗を捕食者(スズキ)を収容したメソコスムに放流し、5日後の生残と成長の追跡調査を実施した。その結果、人工種苗は天然稚魚に比べて捕食に遭いやすく、天然稚魚の生残率(86%)は人工種苗のそれ(56%)よりも有意に高かった。この間の行動観察から、天然稚魚はベントスを積極的に摂餌するのに対して人工種苗は天然餌料を摂餌していないことと、天然稚魚は底層を遊泳するのに対し人工種苗は表層や中層を泳ぐ個体が多いことが分かった。遊泳水深の違いが被食の強弱を決定する要因の一つと推察された。 そこで、種苗性の指標行動として、新規環境に晒されたときの稚魚の遊泳水深に着目することとした。50〜500L規模の実験水槽に稚魚を移槽し、移槽直後から数時間の遊泳水深の変化を調べた。その結果、天然稚魚は移槽後に底層を遊泳するのに対し、人工種苗は表層または中層を遊泳し、放流実験と同様の行動が観察された。このことから実験水槽を用いて種苗の放流後の行動を再現することが可能であり、その行動特性を定量か可能であることが明らかとなった。 さらに、人工種苗が放流後に底層を遊泳しないのは、飼育時に底質のない水槽で飼育されているために、放流後に底質を認知できないのではないかという仮説を立てた。そこで、水槽底面に砂を敷いた水槽とそうでない水槽で人工種苗を1週間馴致飼育し、その後実験水槽への移槽を行った。その結果、砂を敷いた水槽で馴致した人工種苗は移槽後に底層を遊泳することが明らかとなった。 以上のことから、底質への馴致という方法で、トラフグ人工種苗の放流後の行動を制御し、種苗性を高める可能性のあることが示された。
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