イネでは転移能をもつLTR型レトロトランスポゾンが同定され、変異体作出や遺伝子の機能解析に活用されている。本研究は、レトロトランスポゾンの養殖ノリにおける遺伝子解析への利用を目的として、スサビノリから正常な遺伝子構造もつレトロトランスポゾンを分離し、各種ストレスに対する応答能を調べた。その結果、ゲノミックPCRにより5.6kbの完全長LTRレトロトランスポゾンを1クローン(PyRE1G1)分離した。PyRE1G1は両端にLTR配列をもち、ORFにはgagタンパク、プロテアーゼ、インテグラーゼ、逆転写酵素、RNaseHの順に遺伝子がコードされていた。これらの遺伝子の配列順序からPyRE1G1はコピア型レトロトランスポゾンと考えられた。また、逆転写酵素やRNaseH遺伝子の推定アミノ酸配列の相同性からPyRE1G1は緑色植物の因子と相同性が高いことが示された。本研究は、大型海藻におけるレトロトランスポゾン遺伝子の分離の初めての例であり、今後紅藻類以外の有用藻類についてもレトロトランスポゾンの研究が開始されることが期待される。ゲノミックサザン解析の結果から、PyRE1G1は半数体ゲノム中に少なくとも5個以上存在するファミリー遺伝子の1つと推定された。RT-PCRの結果から、ファミリー遺伝子のうち、少なくとも一つは通常状態でも微弱ながら発現していると考えられた。プロトプラスト処理や紫外線照射などによりPyRE1G1の発現量が増大した。ストレスにより誘導されたPyRE1G1転写産物の遺伝子構造を調べたところ、正常な遺伝子構造を示したことから、このファミリー遺伝子の中から転移能もつ遺伝子が存在する可能性が考えられた。
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