沖縄島を中心とする琉球列島の島嶼で主にハゼ亜目魚類の仔稚魚期の分散機構と河川加入時の形態および日齢を明らかにした。また、沖縄島の大浦川でハゼ亜目魚類の産着卵を探索し、その産卵環境を明らかにするとともに、孵化仔魚を飼育して、形態変化を記録した。 1. ハゼ亜目魚類の産卵環境と仔稚魚の形態変化 大浦川では12種(クモハゼ・ミナミヒメハゼ・タネハゼ・クロコハゼ・ヒナハゼ・チチブモドキ・ゴクラクハゼ・ミナミヒメミミズハゼ・ナガノゴリ・ヒトミハゼ・ミナミヒメハゼの1種・ウチワハゼ)、計102卵塊を確認した。これら12種のハゼ亜目魚類は、狭い汽水域に同所的に生息しているが、少しずつ異なる環境を産卵の場として選択し、それによって亜熱帯の汽水域における本亜目魚類の多様性を維持していることが示唆された。また、これら12種の孵化仔魚を飼育して成長に伴う形態変化と着底までの浮遊期間を明らかにした。これらの仔稚魚の形態は、いずれも初記載されたものであり、野外での仔稚魚の同定に大きな意義がある。 2.野外におけるハゼ亜目魚類仔稚魚の浮遊気の長さと加入期の形態 野外で50種以上のハゼ亜目魚類の加入期の仔魚を採集し、その形態を記載し、日齢を解析した。その結果、沖縄島の河川に生息する主なハゼ亜目魚類の加入期の形態が明らかとなった。また、仔魚の浮遊期の長さから、琉球列島に生息するハゼ亜目魚類の分散戦略は、長距離分散型(カワアナゴ属・ボウズハゼ亜科)・短距離分散型(ヨシノボリ属・ミミズハゼ属など)・汽水生息型(サルハゼ属・ノボリハゼ属・ワラスボ亜科など)に類型化された。さらに、長距離分散型の種は長いものでは浮遊期が10カ月にも及ぶこと、汽水生息型の中には、わずか12日間の浮遊期しか持たない種がいることなどが明らかとなった。琉球列島のハゼ亜目魚類の浮遊期の概略が把握され、種毎にその長さが異なることから、仔稚魚の分散戦略を考察する上で極めて興味深いデータが得られた。
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