今年度は主に沖縄島と西表島で両側回遊魚の仔稚魚の流下と分散に関する研究を行った。その結果、沖縄島の1河川でヨコシマイサキMesopristes cancellatusの未成魚の遡上が確認された。本種は従来、本邦では八重山諸島からのみ報告されており、それより高緯度地域からの初記録となった。さらに、沖縄島の複数の河川で日本初記録種であるStiphodon olivaceusが遡上し、一部の個体では産卵も確認された。これらの種は、いずれも南方からの加入個体と考えられ、地球の温暖化に伴う種組成変化の一端として極めて興味深く、現在その動態を継続調査中である。また、西表島の浦内川の汽水域で丸稚ネットによる仔稚魚調査を行った結果、汽水域上端に多数のハゼ科魚類の仔稚魚が能動的に滞留していることが明らかとなった。これらは、広域に分散することなく、狭い範囲で生活史を送ると考えられた。一方、この調査ではボウズハゼやカワアナゴのような小型卵を産み、小型の仔魚が艀化する種の仔稚魚は、全く採集されなかった。すなわち、これらの種は、島嶼としては広大な汽水域を有する浦内川でも、その汽水域に仔稚魚が留まる可能性が低く、海域に分散していることを意味する。今後、河川に生息する魚類の分散戦略を明らかにするにあたり、各種のより詳しい初期生活史の解明の必要性が強く示唆された。さらに、南方から加入してきたと考えられる種が、来年度以降も継続的に加入するのか、再生産や越冬が可能であるかなど、琉球列島の島嶼での北上と定着の可能性を検討したい。
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