研究概要 |
本研究では沿岸域おける硫化水素生成の原因微生物である硫酸還元細菌の分布生態を詳細に調べることを目的とする。まず,同時に多検体を処理するために,機能遺伝子(亜硫酸還元酵素遺伝子)を標的としたリアルタイムPCR法による硫酸還元細菌の計数方法を開発した。SYBR Green Iアッセイを用いたqPCRによって,10^2〜10^<10>コピーの範囲でdsrAを定量することができた。次いで,DNAの抽出方法について,市販のDNA抽出キットとHTPスピンカラム法の比較を行った。既知量のSRB細胞をフィルター上に捕集,あるいは泥試料に添加してDNAを抽出し,qPCRでSRBを計数したところ,何れの方法でも捕集あるいは添加したSRBの細胞数とqPCRによる計数値との間に正の相関が認められた。市販のキットを用いることでDNAの抽出時間が半分以下に短縮することができた。市販のキットを用いてDNAを抽出し,本研究で開発したqPCR法によって,1日以内で多くの試料を同時に高感度・高精度でSRBが計数できることが可能となった。 東京湾以西の沿岸域ならびに韓国カマック湾の海底堆積物を採取した。有機汚濁の指標となるCODと全硫化物量を測定し,得られた堆積物を水産用水基準に従って分類した。その結果,「正常泥」から「汚染泥」まで全ての段階の堆積物を採取することができた。この堆積物から核酸を抽出し,開発したリアルタイムPCR法によって硫酸還元細菌を計数したところ,硫化物が検出されない「正常泥」からも10^7cells/g乾泥以上の硫酸還元細菌が検出された。有機汚濁が進行するにしたがって硫酸還元細菌数が増加し,「汚染泥」からは10^9cells/g乾泥以上の硫酸還元細菌が検出され,「正常泥」と比べて有意に高いことが明らかとなった。現在,PCR-DGGE法によって各試料中の硫酸還元細菌群集の組成を調べている。
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