研究概要 |
本研究では沿岸域おける硫化水素生成の原因微生物である硫酸還元細菌の分布生態を詳細に調べることを目的とした。東京湾以西の沿岸域ならびに韓国カマック湾の51地点から海底堆積物を採取した。CODと全硫化物量を測定し,得られた堆積物を水産用水基準に従って分類した結果,「正常泥」から「汚染泥」まで全ての段階の堆積物を採取することができた。この堆積物から核酸を抽出し,亜硫酸還元酵素のαサブユニット(dsrA)遺伝子を標的としたリアルタイムPCR法によって硫酸還元細菌を計数したところ,硫化物が検出されない「正常泥」からも10^7cells/g乾泥以上の硫酸還元細菌が検出された。有機汚濁が進行するにしたがって硫酸還元細菌数が増加し,「汚染泥」からは10^9cells/g乾泥以上の硫酸還元細菌が検出され,「正常泥」と比べて有意に高いことが明らかとなった。この硫酸還元細菌数はCODや硫化物量とは相関関係が認められなかったが,有機炭素量・窒素量との間には正の相関関係(p<0.05)が認められた。これらの結果から,底泥堆積物中の有機汚濁の進行に伴って,硫酸還元細菌が増加することが示された。次いで,亜硫酸還元酵素のβサブユニット(dsrB)遺伝子を標的としたPCR-DGGEによって,硫酸還元細菌の群集組成を解析した。泥試料によって検出されるDGGEバンドの数やパターンは異なっていたことから,底泥によって硫酸還元細菌の群集組成が異なっていることが明らかとなった。これらのバンドパターンは底泥の有機物量や硫化物量との明確な関連は認められず,様々な要因によって生息する硫酸還元細菌の種が決定されるものと推察される。この硫酸還元細菌群集を特定するために,DGGEゲルよりバンドを切り出し,塩基配列を決定した。その結果,Desulfobacteraceae科とDesulfobulbaceae科に近縁な配列が最も多く検出され,これらが底泥中の主要な硫酸還元細菌群集であることが明らかとなった。
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