研究概要 |
従来の調査により、野外では底質中Mn濃度が1000mg/kgを超えると稚貝の死亡が頻発する事が確認されていた。しかし、室内の7日間飼育実験では、MnO2を高濃度地域の2300mg/kgになるまで高めても生残率に差は出なかった。また、飼育水中にMnイオンを0,1.4,2.7,5.4mg/Lの4段階で添加した場合も影響は認められなかった。しかし、Mnイオンと共に、Mn含有量が低く稚貝の大量死が起こっていない菊池川河口干潟の砂を加えた場合、5.4μg/Lの区分で稚貝の生残率は有意に低下した。ここまでの結果はPlankton & Benthos Research 3(1)に報告した。しかし、この後、現場の間隙水中のMnイオン濃度を詳細に測定したところ、時期によっては稚貝死亡の多い地域では20μg/Lにまで達することが判明した。そこで、より高い濃度区分を設定した実験をおこなった。但し、十分な数の稚貝が得られなかったため、殻長5-10mmの幼貝を用いた。その結果、幼貝の場合でも5μg/L以上の濃度において、砂を入れた場合に生残率の低下が認められた。 そこで、現在は添加した砂を鉱物と有機物成分に分けた飼育実験をおこない死亡がおこる条件の絞り込みをおこなっている。一方、生残率が低下した実験区のアサリの殻については、殻形成が進行しいている周縁部についてSEMとEDXによる分析を、外套膜組織については、LM,TEM,MALDI-TOFMSを使った詳細な検討を進めている。それぞれいくつかの技術的課題はあるものの、次年度で死亡要因の絞り込みと殻形成への影響の全体像を明らかにできるものと考えている。
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