研究概要 |
ホスホリパーゼA2(PLA2,EC 3.1.1.4)は、リン脂質のsn-2位の脂肪酸を加水分解する酵素である。天然の食品乳化剤である大豆レシチンから、より乳可能の高いリゾレシチン(酵素分解レシチン)を製造するために、ブタ膵臓由来のPLA2が使用されてきた。しかしながら、近年、狂牛病や宗教上の理由から、ブタ由来のPLA2が敬遠される傾向にある。岸村は、未利用海産生物であるイトマキヒトデの幽門盲のう中に著しく高いPLA2活性を見いだした。本PLA2は市販のブタ膵臓PLA2と比較して約30倍高いレシチン分解活性を有し、その立体構造を明らかにすることは、本PLA2を利用する上で非常に重要である。昨年度までに、幽門盲のうから精製したPLA2および大腸菌発現PLA2のおおよその結晶化条件を得た。そこで本年度は、イトマキヒトデ幽門盲のうからカラムクロマトグラフィーによりPLA2を精製した。次いで、精製したPLA2を10mM Tris-HCl(pH8.0)に溶解して6mg/mlに調整した。これを結晶化サンプルとしてクリスタルスクリーン1および2キットを用いてハンギングドロップ蒸気拡散法で結晶化を試みた。その結果、0.1M HEPES(pH7.5)-1.5M LiSO_4の条件で結晶が析出した。 また、昨年度までに、イトマキヒトデPLA2の結晶化の条件設定のために、海産生物由来の酵素としてカタクチイワシ内臓トリプシンアイソザイムIおよびIIを精製してそれらの結晶化を試みたところ良好な結晶を得る事ができ、アイソザイムIのX線結晶解析に成功した。本年度は、立体構造解析ソフト、Raster3D、MOLSCRIPTおよびSwiss-Protein Pdv Viewerを用いて詳細な立体構造解析を行い、立体構造解析法を修得するとともに、魚類トリプシンの新規な立体構造特性を明らかにした。
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