研究概要 |
哺乳類では,血中アディポネクチンレベルの上昇によって脂肪,筋および肝細胞における脂質代謝が促進されることが明らかになってきた.また,哺乳類脂肪細胞の分化や代謝調節において核内受容体PPARγが重要な働きを担う.一方,魚類におけるこれらの存在についてはゼブラフィッシュなどのcDNAおよびESTデータベースによって確認しうるが,現時点では機能性を有した脂質代謝関連タンパク質が存在するかどうかについては全く情報が得られていない.そこで本研究では,魚類においても脂質代謝に関与すると考えられるアディポネクチンなどの発現頻度を明らかにし,脂質代謝調節経路を推定することを目的とした. ニジマスEST配列より,ニジマスアディポネクチンの全配列をin silicoクローニングし,その演繹アミノ酸配列に従って,ニジマスアディポネクチンペプチドを固相合成した.本ペプチドを用いてウサギ抗血清を作製し,ニジマス肝臓,血漿等を採取してSDS-PAGEに付し,ウェスタンブロッティングを行った.その結果,認識エピトープの異なる数種類の抗体で交差性が認められるアディポネクチン様成分がニジマス脂肪組織,RTG-2細胞,血漿に認められることが明らかとなった.抗ニジマスアディポネクチン抗体が認識するタンパク質は,哺乳類アディポネクチンに相当する約30k成分以外に高分子成分が認められた.還元条件下でも同様な傾向を示すことから,ニジマスアディポネクチンはジスルフィド結合以外の相互作用力によって多量体化するものと考えられた.これは,哺乳類アディポネクチン多量体が還元条件下によって容易に単量体化することと大きく異なった.哺乳類でアディポネクチンを介してAMPKを活性化することが明らかになっているγオリザノールをニジマスに投与するとAMPKの活性化が認められた.これらのことから,ニジマスにおけるアディポネクチンの作用メカニズムは哺乳類の多量体アディポネクチンシステムと類似しているものと推定された.
|