本研究の目的は、知的財産権の対象となった遺伝子が農業生産、農業技術開発などの場で利用されている実態を分析し、現行制度の下では、農業生産はリスクを負っていることを明らかにすることである。平成19年度は、遺伝子の知的財産権制度が農業に与える影響を把握するため、DNA分析が育種、審査、検査など研究業務、行政実務に利用されているケースを中心に検討した。具体的には、公的研究機関における現地調査、研究者との面接調査、行政実務情報の収集を行った。その結果、次に示すことが明らかになった。 植物新品種保護制度は、栽培試験により表現形質で判断することを原則としている。しかし、近年の遺伝子技術の急速な進歩にともない、同制度の実務はDNA技術を積極的にとりいれており、DNA分析が、輸入・輸出検査、加工品検査、係争の解決の手段となっていること、また、新品種の審査にも導入の動きがあることが明らかになった。つまり、「植物新品種保護制度」と、遺伝子の塩基配列とその有用性を判断基準とする「遺伝子の特許制度」との境界が曖昧になりつつある。 「植物新品種保護制度」は、おもに伝統的な育種、農業者を保護する制度、「特許制度」は、おもに遺伝子技術を利用する大企業の育種を保護する制度として住み分けてきた。前者の実務が後者と接近しているということは、知的財産権制度が農業者にとって不利な方向に動いていることを意味する。 これまでの研究は、両制度の競合関係について、保護される権利の重複という法的な視点から論じてきたが、本研究は、農業生産、農業技術開発、行政実務などの現場の視点から実証的に論じている。 以上の結果をまとめ、産業経済の専門誌で発表するとともに、国際学会での発表を申請し、発表、プロシーディングへの掲載が認められた(平成20年度に発表・掲載の予定)。
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