本研究の「目的」は、知的財産権の対象となった遺伝子が農業生産、農業技術開発などの場で利用されている実態を、現地調査、関係者への面接調査などで把握し、収集情報を分析することにより、現行の遺伝子の知的財産権制度の下では、農業生産は潜在的なリスクを負っていることを明らかにすることである。 この目的を達成するために、遺伝子の知的財産権と農業生産者の関係を次の3つのケースについて検討するという「研究実施計画」を立てている。 (1)(公設試で開発された)特許遺伝子で育種された品種が農業生産者に利用されるケース (2)農業生産者が特定の品種を自家増殖するケース (3)企業と農業生産者の間に(潜在的)対立関係があるケース(企業で開発された特許遺伝子を含む品種が農業生産者に利用されているケース)、の3つである。 平成19年度は、上記の(1)を中心に検討を行った。 平成20年度は、第一に、(2)のケースに関する基礎資料の収集を行った。その結果、少なくとも大規模農家では、購入種苗に依存しており、農業者が不利であるとの認識は希薄であることを把握した。第二に、前年度の検討内容を論文としてまとめ、国際学会で発表した(Proceeding of IAMOT2008)。(発表要旨:本来栽培試験による表現型が判断基準となっている品種登録制度の実務にもDNA分析技術が多用されており、農作物の品種登録と遺伝子(DNA)の特許が重複しつつある(このことは、遺伝子技術を保有する大企業に対して農業生産者、伝統的育種者が不利な立場に陥りつつあることを示唆する)。
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