現行の遺伝子の知的財産制度は、工業技術とともに発達し、開発者である企業の視点に立って形成されており、開発成果の使用者にとどまる農業との関係を十分には考慮してこなかった。このため、現行の遺伝子の知的財産制度は、農業生産の現場にさまざまな問題を惹起する可能性を内包している。本研究は、知的財産権の対象となった遺伝子が農業生産、農業技術開発などの場で利用されている実態を、現地調査、関係者への面接調査などで把握し、収集情報を分析することにより、現行の遺伝子の知的財産権制度の下では、農業生産は潜在的なリスクを負っていることを実証的に明らかにする。 平成21年度は、19年度、20年度の研究成果を踏まえ、企業と農業生産者の間に(潜在的)対立関係があるケースに重点を置き、(1)基礎情報、文献の収集、(2)企業と農業生産者との面接調査および現地調査、(3)企業と農業生産者の力関係について調査、(4)収集した資料・情報の分析・整理を行った。調査は、当初予定どおり、国内だけでなく、農業生産の形態が異なるオーストラリアにおいても実施した。 その結果、国際学会での発表(International Association for Management of Technology)でも示唆したとおり、バイオテクノロジーの発達により、農作物の2つの知的財産権制度(品種登録制度と遺伝子(DNA)の特許制度)の技術的な重複が顕在化しつつあること、この重複が遺伝子技術を保有する大企業に対して農業生産者、伝統的育種者が不利な立場に追い込んでいることが明らかになった。また、農業技術にかかわらず、一般に、知的財産権制度の運用が知的財産権をめぐる関係者の利害関係に大きな影響を与えることも明らかになった。 これらの研究成果のうち、一般的な成果である後者については論文が掲載された。前者については、論文としてまとめており、近く国際学会誌に投稿する予定である。
|