近年農業保護的な傾向を強めているとみられるタイを現地調査し、関連する状況について政策担当者および学識経験者からヒアリングするとともに意見交換を行った。経済発展にともなう都市・農村間の所得格差の拡大などを反映して、コメは外貨の稼ぎ手としてだけではなく、多数の生産者の生活を守るための保護の対象となりつつある。灌漑などのインフラや品種改良その他の技術開発だけではなく、政府による市場介入制度も機能している。これがアメリカのマーケティングローンと同様の融資貸出制度であり、Pledging schemeあるいはMarket interventionなどとよばれる。本来は価格安定を目的としているものが、経済的弱者や地方・農民を支援する政策を推進したタクシン政権下で融資単価が引き上げられたことによって、実質的な部分管理・価格支持として機能する度合いが強まっているとみられる。近年のタイのコメ政策は次第に生産者保護的な要素を強めてきたという評価がえられた。 また輸出補助を含む農業保護政策の輸出促進効果を、輸出補助金相当量として定式化する市場モデルを提示した。対象となる政策は関税などによる市場価格支持、不足払などの生産物直接支払およびデカップリングとよばれる各種の直接支払である。デカップリング直接支払の生産刺激度はデカップリング度とよばれる指標によって評価される。一つの数値例として、EUによる砂糖輸出における輸出補助金相当量を推計し、その金額はEUがWTOに通告する輸出補助金額を大幅に上回ることを明らかにした。
|