研究概要 |
教育の収益率計測において,最小二乗法で計測した係数は,教育年数が外生変数の時にのみバイアスのない係数となることは既に知られている。しかし次の2つの要因によって,教育年数が外生変数とみなされる可能性は非常に低い。その1つは教育年数の計測に誤差があるとき,もう1つは能力のように教育年数と正の相関がある変数が計測式の中に含まれない場合である。現実には教育年数は能力と正の相関があり,能力は所得レベルとも正の相関がありあるため,最小二乗法の係数が大きくなるバイアスが生じると言われている。各個人の能力を観測することは困難である。この問題を解決するために,教育年数と相関があるが所得とは相関のない変数を操作変数とする操作変数法による計測を行った。この場合,操作変数として,父母の教育年数,または配偶者の教育年数などが使用可能であるが,本研究では配偶者の教育年数を用いた。その結果,計測した収益率が全ての地域及び全てのセクターで大きくなった。 次に,家計の要因と家計周辺の経済的要因とが貧困削減に及ぼす影響の分析においても,教育年数を用いるため,上と同様な方法で操作変数を利用し,教育レベルが農業から非農業への就業移動に及ぼす変化を計測した。この場合,移動を説明する変数は家計データと村落データの同時利用,すなわち世帯特性,世帯主特性,家計周辺経済状況を使用した。その結果,操作変数を使用しない場合より教育の係数が大きくなり,教育がより非農業への就業を促進することが判明した。周辺経済状況に関しては,インフラ整備が高いほど,また金属加工・機械製造業が盛んなほど,非農業セクターへの就業確率が高くなることが分かった。
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