水田からの温室効果ガス放出を、実際の農家による簡便な操作で可能な、土壌水分状態の工学的制御によって抑制する方法を探求することを目的としている。今年度は、暗渠排水の利用を想定して、開放浸透と閉鎖浸透を実験装置内で再現し、浸透状況の違いによる水田土壌からのメタン放出量の違いについて検討した。 高さ50cmの透明塩ビ管4本に、水田の成層土壌を再現するよう下から順に心土層(豊浦砂)30cm、耕盤層10cm、作土層10cmを充填し、土壌表面に7.5cmの水深で湛水した。この土壌カラムを30℃の恒温室内に静置し、湛水開始後18日目までは4本すべての土壌カラムを閉鎖浸透状態に保った。途中15日目に湛水にグルコースを添加した。湛水開始後18日目に土壌カラム2本の地下水位を下げるとともに通気孔を開放して開放浸透状態とし、これを開放浸透区とした。地下水位を閉鎖浸透区(以下閉鎖区)では地表面下25cm、開放浸透区(以下開放区)では75cmに設定した。土壌カラムの土中水の圧力、Eh、地温の鉛直分布と、浸透水量を測定した。クローズドチャンバー法により、土壌カラムの地表面からのメタン放出量を1日2回測定した。 湛水開始後15日目にグルコースを添加すると、両試験区で16日目からメタン放出が確認された。18日目に開放区を設置すると、開放区で浸透量が増加し、メタン放出量が低下した。開放区では、心土層のEhは大きく上昇したが作土層のEhは変化しなかった。閉鎖区と開放区とで作土層のEhに差があまり見られないが、開放区のメタン放出量の方が小さいことより、浸透量がメタン放出量に強い影響を与えることが把握された。開放区の表層土壌における酸化層の発達によりメタンの酸化が起こったことや、メタンが浸透水に溶解し下方移動したことなどの可能性が指摘された。
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