研究概要 |
水田からの温室効果ガス放出を,実際の農家による簡便な操作で可能な,土壌水分状態の工学的制御によって抑制する方法を探求することを目的として研究を行っている.今年度は,昨年度の結果を踏まえ,暗渠排水の利用を想定して,地下水位の高低による浸透速度の違いが水田土壌からのメタン放出量の違いへ及ぼす影響について検討した. 高さ50cm,内径14.5cmの透明塩ビ管に,水田の成層土壌を再現するよう下から順に心土層(豊浦砂)30cm,耕盤層10cm,作土層10cmを充填し,土壌表面に7.5cmの水深で1%グルコース溶液を湛水した.この土壌カラムを30℃の恒温室内に静置し浸透状況が安定した後,地下水位を段階的に変化させることにより浸透速度を変化させ,異なる浸透速度での土壌カラム表面(湛水表面)からのメタンフラックスを,クローズドチャンバー法により測定した.また,土壌カラムの土中水の圧力,Eh,地温の鉛直分布と,浸透水量を測定した. 浸透速度とメタンフラックスとの間には強い負の相関があり,両者の関係は直線で近似された.得られた近似直線を用いると,稲のない水田土壌の浸透速度を5mm・d^<-1>から30mm・d^<-1>に変更すると,約0.6kg・ha^<-1>・d^<-1>のメタン放出を削減できると試算された.地下水位を初期の地表面下0cmから100cmにする過程と,その後に地下水位を上昇させる過程とでは,浸透速度とメタンフラックスとの関係が異なることが明らかになった.すなわち,浸透速度を一度30mm・d^<-1>程度の大きな値に設定すると,その後浸透を止めてもメタンフラックスは初期の値には戻らないことが明らかになった.30mm・d^<-1>程度の大きな浸透速度によって,今回測定されなかった何らかの土壌の生物学的,化学的変化が起こったものと推察された.
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