研究概要 |
海岸帯水層において淡水地下水を適切に利用するには,海水侵入の問題を予め把握することが必要となる.海岸域での過剰な地下水の揚水や地球温暖化による海面上昇は,海水をさらに内陸部へと侵入させることになり,淡水地下水の塩水化が懸念される.本研究では,地下止水壁設置に伴い帯水層内に残留している海水の挙動を,室内実験と数理モデルにより明らかにし,さらに,海岸帯水層における地下淡水域への海水侵入制御に関して,止水壁ならびに地表からの淡水注入や井戸からの注水の効果について検討を加えた. まず,地下止水壁下端が基盤に達している場合,止水壁設置後に貯留域に残留した海水は完全に消失することを可視化実験により明らかにした.密度効果を考慮した数値解析では,陸側から海側へ向かう淡水流れが存在する条件下では,止水壁設置後では海側からの海水の侵入が止水壁により遮断され,淡水地下水と海水の境界付近において,分散により希釈された残留海水が陸側からの淡水流れにより徐々に洗い出される流動状況を正確に再現した.一方,止水壁下端が基盤に達していない不完全な止水条件下では,止水壁による海水の押し戻し割合は,海から止水壁までの水平距離の1次関数,及び止水壁挿入深さの3次関数になることを明らかにした.この結果に基づいて,止水壁設置位置と海水の押し戻し割合の関係式を新たに提案し,海岸帯水層に設置した止水壁が海水侵入に及ぼす効果の定量的評価を可能とした. 次に,淡水を井戸から人工的に注入し海水侵入を制御する場合では,海水侵入のくさび先端部近傍で注水することにより,海水を海側に最も後退させることを示した.また,地表面から淡水を涵養する場合では,井戸からの注水に比べて,同一の注入量条件下では,海水侵入抑制効果が小さいことを明らかにした.
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